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家庭用太陽光パネルの部分影対策技術詳解:発電ロス要因と抑制技術

Tags: 太陽光発電, 影対策, 発電効率, パワーオプティマイザ, マイクロインバータ, バイパスダイオード, システム設計

家庭用太陽光発電システムの導入において、発電量の最大化は重要な検討課題です。日射量や気温といった気象条件に加え、設置場所の環境要因、特に太陽光パネルへの「影」の発生は、発電量に大きな影響を及ぼす可能性があります。一時的な鳥の糞や落ち葉、あるいは近隣の建物、樹木、電柱、さらには屋根の突起物など、様々な原因でパネルの一部に影がかかる「部分影」は、システム全体の発電効率を著しく低下させる要因となり得ます。

本記事では、太陽光パネルにおける部分的な影が発電量に影響するメカニズムを詳細に解説し、その発電ロスを抑制するための主要な技術的対策についてご紹介します。導入を検討されている方が、ご自身の設置環境に最適なシステム設計を行う上で、影対策技術の重要性を理解し、適切な機器選定やシステム構成を判断するための一助となることを目指します。

太陽光パネルにおける部分的な影の影響メカニズム

太陽光パネルは、複数の太陽電池セルを直列または並列に接続して構成されています。一般的に、複数のセルを直列に接続したものを「ストリング」と呼び、複数のストリングを組み合わせて一つのモジュール(パネル)やアレイを形成します。パネルに部分的な影がかかると、影になった部分のセルは発電能力が低下するか、ほとんど発電しなくなります。

直列回路では、最も発電能力の低い部分に全体の電流が律速される特性があります。例えば、複数のセルが直列に接続されたストリングにおいて、一部のセルに影がかかり発電能力が低下すると、その影がかかったセルの電流が抑制されます。この電流抑制は、直列に接続された他の正常なセルが発電した電流の流れを妨げ、結果としてストリング全体の発電量が大幅に低下してしまいます。極端な場合、影になったセルが抵抗として働き、熱を発生させる「ホットスポット」現象を引き起こし、パネルの損傷につながるリスクも存在します。

部分影による発電量低下を抑制する技術的対策

このような部分影による発電ロスやパネル損傷のリスクを軽減するために、様々な技術が開発されています。主な対策技術として、バイパスダイオード、パワーオプティマイザ、マイクロインバータが挙げられます。

バイパスダイオード

バイパスダイオードは、最も基本的な影対策技術であり、多くの太陽光パネルに内蔵されています。これは、一定数(例えば15~20セル程度)のセルで構成されるセクションに対して並列に接続されます。もしそのセクション内のいずれかのセルに大きな影がかかり、発電電流が他のセクションの電流よりも低くなった場合、バイパスダイオードがオンになり、電流が影のかかったセクションを迂回して流れるようにします。

これにより、影のかかったセクションがストリング全体の電流を律速することを防ぎ、他の正常なセクションの発電を維持することができます。ホットスポットの発生抑制にも効果があります。ただし、バイパスダイオードが迂回させたセクション自体は発電に貢献できなくなるため、そのセクションの発電ロスは避けられません。また、ストリング単位での最大電力点追従(MPPT)制御を行うシステムでは、ストリング内の複数のセクションで異なる日射条件があると、全体のMPPT効率が低下する場合があります。

パワーオプティマイザ

パワーオプティマイザは、太陽光パネル一枚一枚、または数枚のグループ単位で設置される装置です。各パネルまたはグループごとに最大電力点追従(MPPT)制御を行います。これにより、パネルの一部に影がかかったり、パネルごとに異なる向きや傾斜で設置されたりした場合でも、それぞれのパネルが最大限に発電できるような電圧・電流を調整します。

パワーオプティマイザで調整された電力は、ストリングとして接続され、その後パワーコンディショナで直流から交流に変換されます。バイパスダイオードと比較して、パネル単位での発電最適化が可能であるため、部分影による発電ロスをより効果的に抑制できます。システムの監視もパネル単位で行える製品が多く、個別のパネル性能や問題点の把握が容易になります。導入コストはバイパスダイオードのみのシステムより高くなります。

マイクロインバータ

マイクロインバータは、太陽光パネル一枚一枚に設置される小型のパワーコンディショナです。パネル単位で直流電力を交流電力に変換します。パワーオプティマイザと同様に、パネルごとに独立したMPPT制御を行うため、部分影の影響を極めて限定的に抑え、システム全体の発電量を最大化する効果が期待できます。

マイクロインバータ方式では、各パネルが独立して動作するため、一枚のパネルに問題が発生しても、システム全体の発電に大きな影響を与えにくいという利点もあります。システム構成が分散型になるため、従来のセントラル方式やマルチストリング方式とは配線方法などが異なります。導入コストは一般的にパワーオプティマイザ方式と同等かそれ以上になる傾向があります。

適切な影対策技術の選定

どの影対策技術を選択すべきかは、設置予定場所の環境、予算、求める発電量、および将来的なシステムの拡張性などを総合的に考慮して判断する必要があります。

導入前に、設置予定場所における年間を通じた日射シミュレーションを行い、どのような時間帯に、どの範囲に影が発生する可能性があるかを正確に把握することが、最適な影対策技術を選定する上で非常に重要です。多くの施工業者はこのようなシミュレーションツールを保有していますので、相談されることを推奨いたします。

結論

家庭用太陽光発電システムにおいて、部分的な影は発電量低下の主要因の一つです。しかし、バイパスダイオード、パワーオプティマイザ、マイクロインバータといった技術を活用することで、その影響を効果的に抑制し、長期にわたる安定した発電量確保を目指すことが可能です。

これらの技術はそれぞれ異なる特性、効果、コストを持っています。ご自身の設置環境における影の状況を正確に評価し、各技術のメリット・デメリットを比較検討することが、後悔のないシステム選定につながります。専門業者と密に連携し、最適な影対策を施したシステムを導入されることをお勧めいたします。